食道裂孔ヘルニアと逆流性食道炎(嘔吐・胸痛・背部痛)

近年、逆流性食道炎(ぎゃくりゅうせいしょくどうえん)の漢方依頼が増えている。

逆流性食道炎を抱える方の中には、心療内科に通院されている方も少なくない。
不眠症を抱える患者さん。
パニック障害で、常に不安を感じておられる患者さん。
その背景は様々だが、「逆流性食道炎と心の関与」は、浅くはないと感じている。

半年前より、当薬局へ通われている患者さん(女性)。
彼女は、逆流性食道炎の他に、メニエル氏病(眩暈)も発症されていた。
強い回転性の眩暈のために、「仰向けになって眠れない」と嘆かれていた。

この場合は、逆流性食道炎と眩暈への漢方治療を同時進行することになる。
(眩暈治療に関する記述は、ここでは省略)

彼女は、病院から食道裂孔(しょくどうれっこう)ヘルニアを指摘されていた。
ゲップがたえず、嘔吐を幾度も繰り返す。
朝方の胃もたれ、胸痛(胸がチリチリ焼けるような痛み)、背中の痛みも甚だしい。

逆流性食道炎に関しては、黄連(おうれん)・黄芩(おうごん)を主剤とした瀉心湯(しゃしんとう)系の適応が多く見られる。
ゲップが頻発していれば、「生姜瀉心湯(しょうきょうしゃしんとう)」のファーストチョイスがピンと頭に浮かぶ。

だが、それは「傾向」に過ぎない・・・。
一人ひとりの病態は複雑である。
まして、発症から慢性的な経過があるなら、幾つもの適応が隠れている。

より正確に、見落としがないように、当薬局は 糸練功(しれんこう)という技術によって、患者さんの病態を解析し、適合処方を組み立てている。
(糸練功の詳細は、著者の論文「糸練功に関する学会報告」を参照されたい)

本症例では、食道~胃(背側)と、胸痛部(腹側)、そして五志の憂(自律神経の反応を示すツボ)を糸練功により確認・解析する。

解析結果は、以下のとおり。

○食道~胃・胸痛部・五志の憂の反応より
●生姜瀉心湯(しょうきょうしゃしんとう)証(A証)
●安中散加茯苓(あんちゅうさんかぶくりょう)証(B証)
●柴胡桂枝湯加減方(さいこけいしとうかげんほう)証(C証)

以上の3証が治療を要する低い合数で確認された。
「○○証」との表現は、○○という漢方藥に適応する病態(治療ポイント)である。

注視すべきは、上記の3証すべてが「五志の憂の反応と一致している」ことである。
それは、彼女の逆流性食道炎が「心=神経活動」とリンクしていることを示唆する。

生姜瀉心湯証(A証)は、脂質の消化不良を暗示する。
油物の摂取は、極力控える必要がある。

安中散加茯苓証(B証)は、甘味の摂取により悪化する。
従って、菓子類等の砂糖摂取を制限する。

それらの食養生を伝え、漢方薬の服用を開始。

・・・1ヵ月後
ゲップ:軽度
胃もたれ:軽度
(嘔吐なし)
胸痛:消失
背部痛:消失

眩暈治療も順調にすすみ、1ヶ月後には眩暈・睡眠障害も軽減。

・・・2ヵ月後
ゲップ:消失
胃もたれ:消失

胸痛:消失
背部痛:消失

・・・現在
漢方治療を継続中。


糸練功の指標(合数)
合数の数値は、-1.0~10.0 の範囲で表わされ、
病態の要因である“異常ポイント”を意味します。
※症状が重いほど合数は低く改善と共に上昇します


実践漢方のコメント

食道裂孔ヘルニアを背景とする、逆流性食道炎への漢方治療例です。

逆流性食道炎は、胃食道逆流症(Gastroesophageal Reflux Disease:GERD)の一種です。
消化液(胃酸や十二指腸液)が逆流、食道の粘膜がただれる疾患です。

テレビCMで頻繁に見かけるようにもなりました。

逆流性食道炎の主症状は、「胸焼け」です。
患者さんの多くは、「胸がチリチリ焼けるような・・・」と訴えます。

その原因は、食事の欧米化があげられています。
油っこい食事や、チョコレートなどのスイーツ(甘味)の摂取過多・・・。

確かにそれらも誘因となりえます。

しかし、逆流性食道炎の根底には「心の不調和」があるように思えます。
なぜなら、逆流性食道炎の食道~胃にみられる異常反応が、五志の憂の反応と重複することが多いのです。
五志の憂は、神経活動に関わる反応点です。
統合失調症や、うつ病など全ての精神疾患には、必ず五志の憂に反応が現われます。

また、逆流性食道炎の漢方治療であるはずなのに、その症状が軽減するにつれて、患者さんの表情は明るくなります。
不眠などの神経症状も解消されていきます。

当然ながら、五志の憂の反応も改善しています。

ここで、誤解されることのないように・・・。
本症例は、彼女の一例です。
逆流性食道炎と診断されても、同じ漢方薬が効くとは思わないでください。

適応する漢方薬は、患者さん一人ひとり異なります。
個々の患者さんを解析して、適合処方は決まります。
適合しない漢方薬は、何の効きめもありません。
そうです、漢方治療の命は、「患者さんと薬の適合性を見抜くこと」なのです。

一人ひとりの患者さんに、的確な漢方処方を選ぶ。
そのために、当薬局は糸練功という技術を活用しています。

一人でも多くの先生に、糸練功の関心が広まることを祈念してやみません。


治療に要した漢方薬と費用

漢方薬漢方薬の種類料金(30日分)
生姜瀉心湯散薬12,000円
(税別)
安中散加茯苓散薬11,000円
(税別)
柴胡桂枝湯加減方散薬12,000円
(税別)

※ 適合する漢方処方は、個々の患者様により異なります