のどの異物感と不眠

梅核気(ばいかくき)とは、咽喉(のど)の異物感を示した東洋医学用語である。

現実に、のどの異物感にお悩みの方は多い。
千葉県内からはもとより、千葉県外からも、当薬局へ患者さんが訪れる。

ことに、千葉県外からご来談される方々は、すでに一連の治療を受けている。
従って、のどの異物感に繁用される漢方処方「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」の服用歴は、100パーセント近くの方がお持ちである。
「半夏厚朴湯が無効な『のどの異物感』」の患者さんである。

その病態は複雑で、適合処方の解明に難儀するのが一般的である。

また、嘔吐症、鬱病、甲状腺機能異常のケースでも、高頻度に酷似の半夏厚朴湯証(はんげこうぼくとうしょう)が確認される。
半夏厚朴湯証とは、半夏厚朴湯によって治療が成立する病態を意味する。

通常、証(有効性)の正否は、患者さんの主観に依存し、「症状が『軽減または消失した』或いは『何も変わらない』」等の証言から判断される。
その場合、一定の投薬期間を要し、有効性が明確になるのは当然の如く服用後である。

ただ、投薬期間を経ずして、薬剤の有効性を察知する方法は存在する。
それは、患部(反応穴)に生じた異常磁場を解析し、病態に適合する薬剤を誘導する方法である。

我々は、その技法を糸練功(しれんこう)と称している。
糸練功の解析過程で、患部より得られる異常磁場のピークを合数という指標に変換する。
それにより、「症状はいくつからなる病態の集合体なのか?」を判断し、「症状の軽重を客観的に識別する」ことも可能である。

何より最大のメリットは、「服薬前に有効性が明確になる」ことである。
(糸練功の詳細は、「糸練功に関する学会報告」を参照されたい)

そこで今回は、「難治性の『のどの異物感』」を例に、糸練功の有用性を報告する。


糸練功の指標(合数)
合数の数値は、-1.0~10.0 の範囲で表わされ、
病態の要因である“異常ポイント”を意味します。
※症状が重いほど合数は低く改善と共に上昇します


症例

患者さんは、20歳代の女性である。

平成23年秋より、徐々に気持ちが塞ぎはじめ、頭痛、倦怠感、動悸が頻繁に現われる。
仕事は休まず出勤したものの、やがて睡眠にも支障をきたす。
就寝しても、午前2時くらいに覚醒し、二度寝が不可となる。

その後、のど(咽喉)の異物感が続発し、不安でたまらず漢方治療を依頼された。

一連の症状を問診より伺った後、糸練功を応用した漢方的解析を行った。
解析部位は、五志の憂(自律神経の反応穴)と、愁訴部であるのど(咽喉)である。
(糸練功の詳細は、「糸練功に関する学会報告」を参照されたい)

解析結果は、以下のとおりである。

○五志の憂と、愁訴部の反応より
●半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)証(A証)
●四逆散(しぎゃくさん)証(B証)
●逍遙散(しょうようさん)証(C証)

以上の3証が、治療を要する低い合数で確認された。
「○○証」の表現は、○○という漢方処方で治療が成立することを意味する。

早速、上記3処方による服用計画を組み立てた。


治療経過

・・・0ヵ月後
咽喉の異物感: 非常に強い
頭痛・倦怠感・動悸: 強い
不眠(中途覚醒): 非常に強い(二度寝は不可)

・・・1ヵ月後
咽喉の異物感: 軽度(時々出現)
頭痛・倦怠感・動悸: 軽度
不眠(中途覚醒): 軽度(二度寝は可)

・・・2ヵ月後
咽喉の異物感: 軽度(時々出現)
頭痛・倦怠感・動悸: 消失
不眠(中途覚醒): ほぼ消失

咽喉の異物感は、軽減しているが、改善速度が腑に落ちない。
問診より、軽度の「首凝り」があることを聞く。
糸練功による解析で、第五頚椎に「葛根加苓朮附湯証・・・(K1証)」を確認。
以降、改善の早い「逍遙散証・・・(C証)」を、(K1証)へ変更する。

・・・4ヵ月後
咽喉の異物感: ほぼ消失
頭痛・倦怠感・動悸: 消失
不眠(中途覚醒): 消失

現在
漢方治療を継続中。


考察

咽喉(のど)の異物感における糸練功の適用例である。

患者さんの依頼内容は、第一に不眠症であり、第二に咽喉(のど)の異物感である。

相談当初、患者さんの五志の憂には、四逆散の適応(B証)が、-(マイナス)0.9合という状態であった。
-0.9合の四逆散証とは、自己の感情コントロールは、極めて困難な状態と察している。

睡眠の質も最悪で、深夜の中途覚醒後は、二度寝は不可能だった。
そういう日々の反復であれば、仕事ができる状況とは考え難い。
だが、治療開始より1ヵ月後には中途覚醒はありつつも、二度寝は可能であった。

逍遙散証・・・(C証)も、当初は -0.5合と状態は極めて悪かった。
が、服薬後より頭痛は消失し、順調な改善経過であった。

一方、咽喉(のど)の異物感に関する改善過程には、著者は腑が落ちなかった。
半夏厚朴湯の適応(A証)である治療開始時の合数は、-0.3合。
2ヵ月後には 1.4合 と良好に思えるが、改善が若干遅く、軽度の咽喉(のど)の異物感は度々現われた。

よくよく伺うことで、「疲労時に首が凝る」との回答を得て、第五頚椎の「葛根加苓朮附湯」(K1証)の適応を確認するに至った。
早速、葛根加苓朮附湯を服用すると、予想通り、改善速度に拍車がかかった。

このことは、本症例の咽喉(のど)の異物感には、半夏厚朴湯(A証)では完治し得ない頚椎異常の適応(K1証)が混在していたことを示唆している。

現在も、漢方治療を継続中である。
咽喉(のど)の異物感や、全ての症状は消失に至っている。

本報告は、梅核気(のどの異物感)における改善プロセスである。
ここで重要なことは、同質に思える咽喉(のど)の異物感を訴える患者さんであっても、その治療法は必ずしも同一ではない。

それは、一人ひとりの病態を構成するファクター(証)が異なるからである。

そもそも、神経科領域における患者さんの症状は、多様かつ複雑で、問診の情報からでは病態の本質を把握すること自体、非常に難しい。

ただ、糸練功を応用することで、複雑な病態にあっても、個々のファクター(証)に分離し、適合処方は解析できる。

また、糸練功における「合数」の概念は、患者さんの主観的な訴えを、「治療者が『客観的な指標』で判断できる方法」として大いに役立っている。

一人でも多くの先生方が、糸練功を活用することを祈念してやまない。


治療に要した漢方薬と費用

漢方薬漢方薬の種類料金(30日分)
半夏厚朴湯散剤9,000円
(税別)
四逆散散剤12,000円
(税別)
逍遙散散剤11,000円
(税別)
葛根加苓朮附湯散剤12,000円
(税別)

※ 適合する漢方処方は、個々の患者様により異なります