頸椎損傷(眩暈、耳閉感、咽喉の異物感を伴う)

【緒言】
2012年、木下文華先生(福岡県・太陽堂漢薬局)によって報告された「バレー・リュー症候群」(伝統漢方研究会会員論文集 Vol.6 「2012」)には、頸椎を正常化させる漢方治療が、多様な症状の改善と連動する可能性が示唆されている。

以降、難治性と思われた眩暈をはじめとする神経症状等が、頸椎への漢方治療を並行することにより著効した例を、著者も幾度となく経験している。

そこで今回は、頸椎異常が誘発したと思われる難治性眩暈の著効例を報告する。

【症例】
20歳代、女性、身長:160cm

【主訴】
眩暈。
20歳の頃より発症、その症状は「フワフワするような眩暈」と表現され、仰臥して閉眼すると増強する傾向にあり。
さらに、両耳に強度な耳閉感を伴い、動悸、胸部の違和感(息苦しさ)も訴える。

患者さんの反応穴・愁訴部を、糸練功にて確認・解析し、適合処方を誘導する。
(糸練功の技術的な要項は、「糸練功に関する学会報告」を参照されたい)

【治療経過】
平成21年2月13日
眩暈反応穴 -0.3合 臓腑病 肺 陽証 柴胡桂枝湯合香蘇散(A証)                 0.1合 臓腑病 心 陽証 半夏白朮天麻湯加減方(B証)

平成21年6月22日
眩暈反応穴 3.6合 臓腑病 肺 陽証 柴胡桂枝湯合香蘇散
4.1合 臓腑病 心 陽証 半夏白朮天麻湯加減方

治療開始より、2ヵ月後には耳閉感は消失。
眩暈も軽減するが、途中、感冒による中耳炎を発症させ、同時期に耳閉感と眩暈は悪化。
6月時点においては、耳閉感(-)、眩暈(-)。

平成21年12月10日
眩暈反応穴 8.9合 臓腑病 肺 陽証 柴胡桂枝湯合香蘇散
9.1合 臓腑病 心 陽証 半夏白朮天麻湯加減方

咽喉の反応  0合 臓腑病 大腸 陽証 半夏厚朴湯(C証) 五志の憂と一致

順調な改善経過に反し、突如、咽喉の異物感を発症する。
眩暈も軽度ながら再発。
耳閉感(-)、眩暈(+)、咽喉の異物感(++)。

その1ヵ月後、半夏厚朴湯により咽喉の異物感は消失した。
が、平成22年4月、不眠を伴った咽喉の異物感「柴胡加竜骨牡蠣湯証(D証)」が出現。
また、眩暈の新証である 苓桂朮甘湯加沢瀉証(E証)、抑肝散加減方証(F証)、牛黄清心元証(G証)を確認する。
イタチゴッコの様に新証が現われる。
その変則的な証の出現に、著者は翻弄される。

当然の如く、出現した全ての適合処方を服用することは不可能である。
その後の対応は、不本意な症状回復を優先した「対症療法」の反復となった。

そして、2012年に論文「バレー・リュー症候群」が報告される。
患者さんの症状を再精査、「慢性的な頸部の凝り」の回答を得る。
20歳当時、事故による頸椎損傷の経験あり、眩暈発症は事故後であることも判明。

平成24年10月19日
頸椎の反応 -0.3合 臓腑病 膀胱 陰証 桂枝加苓朮附湯(K1証)
-0.1合 臓腑病  胆 陰証 柴胡桂枝乾姜湯(K2証)

眩暈反応穴  0合 臓腑病  肝 陰証 F曲参製剤合B牡蠣製剤(H証)

糸練功により「第5頸椎の異常」を確認し、K1証とK2証を誘導。
また、K1証とK2証の適用により、眩暈の反応(A、B、E、F、G)及び、咽喉の反応(C、D)が消失することも糸練功にて確認。
耳閉感(-)、眩暈(±)、咽喉の異物感(-)、頸部の凝り(++)。

平成25年1月15日
頸椎の反応 2.6合 臓腑病 膀胱 陰証 桂枝加苓朮附湯(K1証)
2.8合 臓腑病  胆 陰証 柴胡桂枝乾姜湯(K2証)

眩暈反応穴 2.8合 臓腑病  肝 陰証 F曲参製剤合B牡蠣製剤(H証)

頸部症状の改善と共に、眩暈は顕著に減少。
耳閉感(-)、眩暈(-)、咽喉の異物感(-)、頸部の凝り(-)。

現在も漢方治療を継続中。


糸練功の指標(合数)
合数の数値は、-1.0~10.0 の範囲で表わされ、
病態の要因である“異常ポイント”を意味します。
※症状が重いほど合数は低く改善と共に上昇します


考察

眩暈治療の選択肢にある漢方薬の役割は大きく、かつ、得意分野でもある。

仮に、激しい嘔吐と頭痛を伴う眩暈を、「呉茱萸湯」というたった4味の薬方で治癒に至らしめることも、適合性の識別が可能であれば、それは容易な作業である。

しかしながら、現実に訪れる患者さんの症状は、時に複雑である。
まして、一連の医療機関において、一連の治療を施された経緯があり、それらが無効である方の多くの病態は複雑化している。
本症例も、その範疇に属するといえよう。

ここにあげた病態は「頸性眩暈」に属し、頸椎異常が齎した椎骨動脈不全が原因とされている。
しかし、現代医学的に頸性眩暈を完治させることは、容易ではない。

ただ明確な事は、糸練功の活用により、頸椎損傷への適合処方を解析すれば、治癒への誘導は可能である。

最後に、本症例の「眩暈」は、あくまで「枝葉末節の症状」に過ぎない。

「頸椎損傷への処方決定が『本質的な治療』を意味する」と著者は考える。


治療に要した漢方薬と費用

漢方薬漢方薬の種類料金(30日分)
桂枝加苓朮附湯散剤12,000円
(税別)
柴胡桂枝乾姜湯散剤12,000円
(税別)
F曲参製剤合B牡蠣製剤散剤17,200円
(税別)

※ 適合する漢方処方は、個々の患者様により異なります