頸椎椎間板ヘルニア(首痛・上腕のしびれ)

通常、頸椎ヘルニアを患う方は、発症から何年も経過した状態で漢方治療を依頼されるケースが多い。
頸椎ヘルニアに限らず、経年によって疾病の多くは慢性化する。
慢性化した頸椎ヘルニアであっても、漢方治療は可能である。
だが、初期段階の頸椎ヘルニアに比して、治療に要する漢方処方は多くなる。

本症例は、発症後まもなく整形外科を受診され、頸椎ヘルニアと診断された。
発症から5ヶ月の段階で、漢方治療を依頼された為、慢性化は避けられていた。
年齢も、「30歳代」と若く、体力も充実した方で、極めてスムーズに漢方治療が展開できた例である。

整形外科では、MRI等の詳細な検査が行われ、頸椎(5番~6番)の変形を指摘されていた。
主症状は、首筋の痛みと、右上腕の痛み・痺れ(しびれ)である。
痛みと痺れは、天候の影響を受け、雨天の前日に悪化する傾向があった。
「就寝中も痛みのために、何度か起きてしまう」・・・睡眠障害も訴えられていた。

ここで、多くの方が誤解しておられるようだが、漢方治療は病名だけで方針を決定できない。
現代医学では、「痛みがあるから、ロキソニン(消炎鎮痛剤)」、「コリがあるから筋弛緩薬」という処方が施される。

しかし、漢方治療の手順は異なる。
処方決定には、「患者さんと漢方処方の適合性の見極め」が必須である。
適合しない漢方薬を服用しても、頸椎ヘルニアは治せない。
そのため、「糸練功(しれんこう)」という技術を、当薬局は活用している。

漢方医学は、「体表解剖学」である。
頸椎ヘルニアの患部は、必ず異常な情報を発信している。

頸椎ヘルニアは、患者さんのどこ(臓腑・経絡)から起因しているか?
その原因は、いくつあるのか? 一つなのか? 複数なのか?
頸椎を正常化させる漢方薬(適合処方)は何か?

それらを患部の情報を解析し、糸練功を用いて適合処方を誘導するのである。
(糸練功の詳細は、著者の論文「糸練功に関する学会報告」を参照されたい)

本症例の解析結果を以下に記す。

1)頸椎(第5~6)周辺の反応より

● 桂枝一越婢二湯加蒼朮(けいしにえっぴいちとうかそうじゅつ)証(A証)
● 麻杏ヨク甘湯(まきょうよくかんとう)証(B証)

以上の2証が、患者さんの頸椎ヘルニアに深く関わっていると理解されたい。
「○○証」と表現しているのは、○○という漢方薬に適応する病態(治療ポイント)である。
つまり、この方の頸椎ヘルニアは、(A)(B)の2処方によって根治可能なことを意味する。

1ヵ月後
首筋の痛み:残存するが軽度。(改善中)
右上腕の痛み・痺れ:残存するが軽度。(改善中)
痛みによる睡眠障害:消失

3ヵ月後
首筋の痛み:消失。
右上腕の痛み・痺れ:消失。
痛みによる睡眠障害:消失

6ヵ月後
漢方治療を終了する。


糸練功の指標(合数)
合数の数値は、-1.0~10.0 の範囲で表わされ、
病態の要因である“異常ポイント”を意味します。
※症状が重いほど合数は低く改善と共に上昇します


考察

本症例における頸椎ヘルニアに関して、漢方薬の服用開始より 3ヶ月後 には、首筋の痛み・上腕の痛みと痺れは、すでに消失していた。

頸椎ヘルニアは、経年経過により慢性化し複雑となるが、上記の(A証)(B証)はともに陽証であり、治療はスムーズに展開した。

複雑化した頸椎ヘルニアにおいて、通常、陰証の病態(治療ポイント)を認めることが多い。
桂枝二越婢一湯加苓朮附、葛根加(苓)朮附湯、桂枝加(苓)朮附湯などの附子剤(ぶしざい)の適用である。

また、本症例では、右上腕の「痺れ」を訴えていた。
痺れの病態は、陰証に多い。
当初は、附子剤の適用も視野に入れたが、結果的にその必要性がなかったことは、真に幸運である。

本症例は、初期段階で複雑化していない頸椎ヘルニアの治療例である。
よって、6ヵ月で完治に至っている。

比較的容易に適合処方を解析できた。
が、病態(治療ポイント)は単一ではなく、2処方を要した。

通常、薬剤の有効性は、服薬後に明らかとなる。
しかし我々は、服薬前に有効性を識別している。

「なぜ、服薬もしていないのに、有効な薬が判るのか?」
と、一般の方は不思議に思われる。

しかし、それは可能な事象である。
人体は適合処方に接触すると、数十秒間、異常反応を消失(正常化)させる。
その特性を、糸練功をもって検知したのである。

糸練功への関心が広まり、一人でも多くの先生が活用することを祈念してやまない。


治療に要した漢方薬と費用

漢方薬漢方薬の種類料金(30日分)
桂枝一越婢二湯加蒼朮散薬12,000円
(税別)
麻杏薏甘湯散薬11,000円
(税別)

※ 適合する漢方処方は、個々の患者様により異なります