不妊症治療は、当帰芍薬散のみならず

不妊症にお悩みの方は、様々な不妊治療を経験されている。

排卵誘発剤(経口・注射)は勿論のこと、漢方薬(保険適用)の服用者も多い。
保険適用の漢方薬で、妊娠・出産される方もおられる。
しかし、妊娠に至らない方もおられる。

なぜなのか?

不妊治療へ多用される保険適用の漢方薬は、「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」であろう。
当帰芍薬散は、 トウキ、センキュウ、シャクヤク、ブクリョウ、ビャクジュツ、タクシャ の 6種類の生薬で構成される漢方処方である。

古来の当帰芍薬散は、上記6種類の生薬の粉末を一定の割合で混合したものである。
一方、日常的に処方される製剤は、混合生薬をエキス抽出した「エキス剤」である。
従って、我々は語尾に「料」を付けた「当帰芍薬散料」と称し、区別している。

その理由は、当帰芍薬散を構成する「ビャクジュツ」・「タクシャ」は、エキス抽出し難い成分を含有する。
ゆえに、「エキス剤である当帰芍薬散料」は効果が減ずる。

その理由から、漢方の専門職は当帰芍薬散の適応症(当帰芍薬散証)には、古来の(本当の)当帰芍薬散を用いる。

確かに、不妊症の方には当帰芍薬散の適応例は多い。
当薬局の経験でも、当帰芍薬散による妊娠・出産の成功例は数え切れない。

しかしながら、当帰芍薬散は不妊症治療の万能薬ではない。
同一の不妊症であっても、必ず一人ひとり個性(個体差)があるからである。

ホルモンバランスの乱れ、子宮内膜症、卵管狭窄、高プロラクチン血症・・・多様である。

そもそも当帰芍薬散は、「血虚」「水毒」「アトニー体質」を目的に、先人が考案してくれた薬方(処方)である。
ホルモンバランスの乱れは血虚だけが原因でなく、むしろ当帰芍薬散でカバーしきれないケースの方が多い。
子宮内膜症・子宮筋腫の既往があれば、駆瘀血剤の適応もあるだろう。

何より、実際の不妊症の病態は、複雑化していることを忘れてはならない。
1種の漢方だけ(単独処方)では、歯が立たない方が圧倒的に多いのである。
故に、当帰芍薬散料だけで妊娠・出産に至った方は、真に幸運である。

ここで、多く見受けられる不妊治療の一例をあげる。
4年間、2人目不妊にお悩みだった30歳代後半の御婦人である。

まず、当薬局は不妊症と聞いただけで、漢方薬を渡すことは無い。
薬の譲渡は、「漢方薬が、実際に有効なのか?」を確認した後である。

当薬局において、漢方薬の有効性の識別に、「糸練功(しれんこう)」という技術が活用される。

東洋医学は、「体表解剖学」である。
どんなに深い病気でも、その反応は身体の体表部に現われる。
その反応部位は、「反応穴(はんのうけつ)」と称されている。

不妊症は、患者さんのどこ(臓腑・経絡)の不調が原因なのか?
その原因は、いくつあるのか?
一つなのか? 複数なのか?
不妊の状態を正常化させる漢方薬(適合処方)は何か?

それらを反応穴の情報を解析し、治療方針を決定する為の糸練功である。
(糸練功の詳細は、著者の論文「糸練功に関する学会報告」を参照されたい)

御婦人の反応穴の解析結果を以下に記す。

1)不妊症の反応穴より
● 甲字湯加黄芩(こうじとうかおうごん)証 -0.5合(A)
● 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)証 2.0合(B)

2)高プロラクチン血症の反応穴より
● 甲字湯合芍薬甘草湯(こうじとうごうしゃくやくかんぞうとう)証 0.4合(C)

3)左卵管の反応穴より
● 六君子湯(りっくんしとう)証 0合(D)

以上の4証が、御婦人の不妊症に関わっていると理解されたい。

「○○証」と表現しているのは、○○という漢方薬に適応する異常(病態)である。
つまり、この方の不妊症は、(A)(B)(C)(D)の4処方が治療に必要なことを意味する。

1.5ヵ月後
婦人科にて、妊娠が確認される。
その後、無事に出産される。

以上の不妊治療例は、漢方薬の服用を始めて 1.5ヶ月 で妊娠に至っている。

治療に要した漢方処方を要約すると、処方(A)甲字湯加黄芩、処方(C)甲字湯合芍薬甘草湯は、瘀血(血滞)を改善する処方。
処方(D)六君子湯は、卵管狭窄の方に多く適合する処方。
処方(B)当帰芍薬散は、「血虚」「水毒」「アトニー体質」の方に多く適合する処方。

ここでは、30歳代後半の年齢を考慮して、処方(B)当帰芍薬散を用いたが、2.0合という合数は、さほど深刻な状態ではない。
20歳代であれば用いずとも、治療可能と思われる。

むしろ治療に欠かせない処方は、合数が極度に低い甲字湯加黄芩(-0.5合)、六君子湯(0合)、甲字湯合芍薬甘草湯(0.4合)である。
その1つを欠いても妊娠は困難となる。

本掲載は、糸練功による解析で、スムーズな出産を迎えた治療例である。
しかし、実際には当帰芍薬散の他に必要不可欠な漢方処方が3種存在することに注目していただきたい。

この方だけではない。
不妊症のほとんどの方には、複数の治療ポイント(病態)が存在するのである。
その方々へ「不妊症=(イコール)当帰芍薬散料」という方程式は当てはまらない。

一人ひとりの体質を見抜き、処方決定へ至るのは、元来、難解な作業なのである。
その難解な作業である処方決定が、なぜ正確にできるのか?
それは、糸練功を活用しているからである。

糸練功による病態解析・適合処方の誘導は、治療法を決定する上で真に有用である。
糸練功への関心が広まり、多くの先生方が活用することを祈念してやまない。


不妊治療の年齢について

不妊治療のご依頼に際して、年齢上の限界があります。
卵子の質・量的な観点から、45歳を過ぎると治療効果は著しく下がります。

そのため、不妊治療のご依頼は、45歳 を上限とさせていただきます。